記事No | : 254 |
タイトル | : 『山』ミシュレ |
投稿日 | : 2002/02/20(Wed) 21:38:56 |
投稿者 | : kitamura |
峠名と掲載ページ
・大サン・ベルナール峠、p34、p55
古代からあるこの厳しい通行路を、鳥たちは絶対に取ろうとしないが、40ピエもの深さの雪が見られるそういった場所に、(最近でもまだ)死体展示所や痛み傷ついたものの収容所があり、氷に閉じ込めらた状態で鳥の死体がいつまでもさらされていたが、そうしたものを見るとき、あの場所の悲劇性が十分に感じ取れる。
・シンプロン峠、p55
ひどく荒涼としたイタリア側を上昇するとき、鳥は並外れた用心をするが、そのことからも危険が十分に察知できる。上部が円天井の八つの歩廊、六つの避難所、二十の逃げ場が安全を保つとともに、死が頭上にあることを警告している。時おり、円天井をたたくようにこだましながら、雪崩の雷のようにずしんとくる響きが、長く尾を引きながらとどろくのである。
・シュプリューゲン、p55
シュプリューゲンの歩廊以上に堂々としたものは何もない。あれらはイタリアの才能が作り出した巨大な作品である。人はおびえ魅了される。あれらの道は、通行路という以上に、不可視のもののために深淵の上に立てられた宮殿といった様子である。あれらの歩廊には窓があって、すばらしいアーケードが山や断崖の眺めを縁取り、幻想的な印象を与えている。歩いていくと広大な光景が次々とやってきては、一瞬光りの中で認められ、あっという間に去ってゆく。まるであれらの円天井の歩廊全体が錯覚の世界であり、精霊たちが住む僧院のようなのだ。